DV防止法の「保護命令」とストーカー規制法の「禁止命令等」は、名前は似ていますが別の制度です。いちばん大きな違いは出すところで、保護命令は地方裁判所が、禁止命令等は都道府県公安委員会(警察)が出します。対象になる相手、始め方、有効期間、違反したときの罰則もそれぞれ違います。
この記事では、2026年9月時点の条文をもとに、2つの制度の違いを表で整理し、「自分の場合はどこに相談すればいいのか」までをまとめます。身の危険が差し迫っているときは、この記事を読むより先に110番に通報してください。
保護命令と禁止命令等は、何が違うのですか?
保護命令は、配偶者などからの暴力の被害者が裁判所に申し立てて出してもらう命令で、禁止命令等は、つきまとい等を受けた人の申出などを受けて公安委員会が出す行政上の命令です。主な違いは次のとおりです。
| 比べる点 | DV防止法の保護命令 | ストーカー規制法の禁止命令等 |
|---|---|---|
| 正式な法律名 | 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 | ストーカー行為等の規制等に関する法律 |
| 出すところ | 地方裁判所 | 都道府県公安委員会 |
| 相手 | 配偶者・元配偶者(事実婚を含む)、生活の本拠を共にする(していた)交際相手 | 条文上、相手との関係の限定はない(恋愛感情などを満たす目的でのつきまとい等が対象) |
| 始め方 | 被害者が書面で申し立てる | 被害を受けた人の申出、または公安委員会の職権 |
| 有効期間 | 接近禁止命令は1年、退去等命令は2か月(一定の場合は6か月) | 1年(必要があれば1年ずつ延長できる) |
| 違反したとき | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 | 内容により2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
このあと、それぞれの制度をもう少し詳しく見ていきます。
「接近禁止命令」は、どちらの制度の言葉ですか?
「接近禁止命令」は、DV防止法の保護命令のひとつを指す正式な名前です。ストーカー規制法の命令の正式な名前は「禁止命令等」で、条文に「接近禁止命令」という言葉は出てきません。
ニュースや会話では、ストーカー規制法の禁止命令等も「接近禁止命令」と呼ばれることがあり、2つの制度が混ざって伝わりやすくなっています。相談の窓口で話すときは、「裁判所の命令のこと」か「警察・公安委員会の命令のこと」かを意識しておくと、話が通じやすくなります。
DV防止法の保護命令は、誰がどんな場合に使えますか?
保護命令は、配偶者などから暴力や脅迫を受けた人が、さらに暴力などを受けて生命や心身に重大な危害を受けるおそれが大きいときに、地方裁判所へ申し立てて出してもらう命令です(DV防止法第10条)。
対象になる相手
- 配偶者:婚姻届を出していない事実婚の相手も含まれます(第1条)。
- 元配偶者:婚姻中に暴力や脅迫を受け、そのあと離婚した場合は、元配偶者も申立ての相手になります(第10条)。
- 生活の本拠を共にする交際相手:婚姻関係に近い共同生活を営んでいる交際相手からの暴力にも、この法律が準用されます。一緒に暮らしていたころに暴力などを受け、そのあと別れた場合も、元交際相手が申立ての相手になりえます(第28条の2)。
一緒に暮らしたことのない交際相手・元交際相手とのトラブルは、この対象になりません。その場合はストーカー規制法の対象になるかを考えることになります。
保護命令の種類と期間
- 接近禁止命令:被害者の身辺へのつきまといや、住居・勤務先などの付近をうろつくことを禁じます。期間は命令の効力が生じた日から1年間です。
- 電話等禁止命令(一般にこう呼ばれます):接近禁止命令とあわせて、面会の要求、深夜の電話やメッセージ、承諾のない位置情報の取得などを禁じるものです。
- 子や親族等への接近禁止命令:相手が子どもを連れ戻そうとしたり、親族の家に押し掛けたりしていて、そのために被害者が相手と会わざるを得なくなるのを防ぐためのものです。子への命令は被害者と同居している未成年の子が対象で、15歳以上の子は本人の同意が、親族等への命令はその親族等の同意が必要です。
- 退去等命令:一緒に住んでいる家から相手を退去させる命令です。期間は2か月で、家の所有者や借り主が被害者だけの場合は、申立てにより6か月になります。身体への暴力か、生命・身体への脅迫を受けた場合に限られ、申立ての時点で一緒に住んでいることが条件です(第10条の2)。
保護命令には、ストーカー規制法の禁止命令等のような延長の規定はありません。期限が近づいて不安があるときは、改めて申し立てられるかを含めて、裁判所・弁護士・配偶者暴力相談支援センターに相談してください。
申し立てるときの注意
申立ては書面で行い、配偶者暴力相談支援センターや警察に相談したことがあるかを書く欄があります。相談したことがない場合は、公証人の認証を受けた書面を添付する必要があります(第12条)。つまり、先に公的な窓口へ相談しておくと、申立ての準備が進めやすくなります。
申立書の具体的な書き方や必要書類は、申し立てる地方裁判所や弁護士に確認してください。
ストーカー規制法の禁止命令等は、どんな場合に出されますか?
禁止命令等は、つきまとい等や位置情報の無断取得等で相手に不安を覚えさせた人がさらに繰り返すおそれがあると認められるときに、都道府県公安委員会が出す命令です(ストーカー規制法第5条)。
- 対象になる行為:恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行う、つきまといや待ち伏せ、連続した電話・メッセージ、承諾のない位置情報の取得などです。
- 始まり方:被害を受けた人の申出によるほか、公安委員会が職権で出すこともあります。
- 手続き:原則として相手の言い分を聞く「聴聞」を経ますが、身体の安全などを守るために緊急の必要があるときは、聴聞を経ずに出すことができます。
- 期間:1年です。続ける必要があると認められれば、1年ずつ延長することができます。
警察の「警告」を経ずに禁止命令等が出されることもあります。警告や禁止命令等の流れ、つきまとい等の具体的な行為は、ストーカー規制法とはのページで条文とあわせて整理しています。
違反したときの罰則は、どう違いますか?
どちらの命令も、違反すると刑事罰の対象になります。罰則は、2025年6月1日に施行された刑法等の改正により、懲役・禁錮ではなく「拘禁刑」になっています。
| 違反の内容 | 罰則 | 条文 |
|---|---|---|
| DV防止法の保護命令に違反した | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 | DV防止法第29条 |
| 禁止命令等に違反してストーカー行為をした | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 | ストーカー規制法第19条 |
| 禁止命令等に違反した(上記以外) | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | ストーカー規制法第20条 |
条文はe-Gov法令検索「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」とe-Gov法令検索「ストーカー行為等の規制等に関する法律」で確認できます(2026年9月時点)。
自分の場合はどちらに当たる?まずどこに相談すればいいですか?
どちらの制度が当てはまるかを、最初から自分ひとりで決める必要はありません。まずは相手との関係と、いま起きていることを整理して、公的な窓口に相談するのが近道です。
| いまの状況 | まず相談する先 |
|---|---|
| 身の危険が差し迫っている | 110番 |
| 配偶者・元配偶者・同居している(いた)交際相手からの暴力や脅迫 | 配偶者暴力相談支援センター(DV相談ナビ #8008)、警察 |
| 元交際相手や知人などからのつきまとい・連続した連絡 | 警察の相談専用電話(#9110)、最寄りの警察署 |
| どちらに当たるか分からない | 警察の相談専用電話(#9110) |
「#8008」(DV相談ナビ)に電話をすると、近くの都道府県の配偶者暴力相談支援センターにつながります。一部の携帯電話会社やIP電話などからはつながらない場合があるため、その場合は各センターに直接電話してください。通話料がかかることや、相談できる時間が機関ごとに違うこと、センターの一覧は、内閣府男女共同参画局ホームページ「配偶者暴力相談支援センター」で案内されています。
また、内閣府の「DV相談+(プラス)」では、24時間の電話相談のほか、チャットでの相談なども受け付けています(内閣府男女共同参画局ホームページ「DV相談について」)。
どちらの制度を使う場合でも、相手と二人きりで会って話し合うことは避けてください。つきまといを受けているときに最初にしておきたいことは、ストーカー被害に遭ったら、まずこれだけはにまとめています。警察・弁護士・医療機関がそれぞれ何をするところかは、どこに相談すればいいかで整理しています。
よくある質問
Q. 元交際相手からのつきまといでも、DV防止法の保護命令は使えますか?
A. 生活の本拠を共にしていた(一緒に暮らしていた)ころに、その交際相手から暴力や脅迫を受けていた場合は、対象になることがあります。生活の本拠を共にしていなかった交際相手は、DV防止法の保護命令の対象になりません(第28条の2)。一緒に暮らしていたと言えるか迷うときや、対象にならない場合は、ストーカー規制法の警告や禁止命令等を使えるかを含めて警察に相談してください。
Q. 禁止命令等の期限が切れそうなときは、どうすればいいですか?
A. ストーカー規制法の禁止命令等は、続ける必要があると認められれば、被害を受けた人の申出または職権で1年ずつ延長できます。期限が近づいて不安があるときは、早めに警察に相談してください。
Q. 保護命令の申立ては、自分でしなければいけませんか?
A. 申立てをする人(申立人)は被害者本人ですが、手続きを弁護士に代理人として依頼することもできます。書類の準備に不安があるときは、配偶者暴力相談支援センターで制度の利用について情報提供を受けたり、弁護士に相談したりしてください。
ひとりで判断がつかないときは
保護命令と禁止命令等のどちらが当てはまるかは、相手との関係やこれまでの出来事によって変わります。「警察に行くほどなのか分からない」「相手が元の配偶者なので相談しづらい」という段階でも、ひとりで抱え込まないでください。
私たちストーカー・リカバリー・サポートは、元ストーカー加害者である代表が立ち上げた団体で、被害に遭っている方のご相談と、やめたいのにやめられない加害者本人・ご家族のご相談を、同じ窓口でお受けしています。ご相談のなかで必要と判断した場合は、顧問弁護士へのおつなぎや警察への同行も行っています。なお、当団体から加害者へ直接働きかけることはしません。加害者への対応が必要な場合は、弁護士を通して行います。
電話・メールとも24時間受け付けています。上の表の公的な窓口への相談とあわせて、お問い合わせから、いまの状況をお聞かせください。